1.他式はいざ知らず、早稲田式は大衆の速記文字として発足すべきである。
一部専門家の独占的速記符号でなく、誰にでも憶え易く書き易く読み易いことをモットーとし、しかも正確を旨とする速記文字でなければならぬ。
2.早稲田式は科学的な根拠に立脚して、理路井然たる理論によって組織付けられ、系統付けられた文字でなければならぬ。
即ち統計学的に、言語学的に、音声学的に、また数理学的に、心理学的に、美学的に、その他あらゆる方面より検討し、決定された文字でなければならぬ。
3.早稲田式速記文字は、美術的要素と深さを持ったところの一種の芸術的速記文字であることが理想である。
ただ書いた文字が正確に読み返し出来るというだけでなく、速記文字を通じて、絵画や書道のような美術的心境を体得し、その洗練された文字全体によって優雅な美しさを味わい得る文字でなければならぬ。
4.しかも、速記文字である以上、その最大使命とする発音の即座的文字化の出来る超高速度の文字でなければならぬ。
速度は以上の三綱領に則り不断の研究を続け、法則を遵守し、たえざる修練を積むことによって必然的に上昇し得るものである。
5.早稲田式速記文字の奥義を究めるためには、心身の鍛練と豊富なる国語及び国字の知識が必要である。
早稲田式は一種の科学的な根拠に立脚した文字であり、反面技術的な要素を持った文字であるが、単なる技術でなく、いわゆる芸術的要素を持った速記文字なるが故に、これが完成を期するためには、完全なる人間的修練と、円満なる人格をそなえなければならぬ。更にこれを言い換えるならば、速記道を修練することによって心身の鍛練をなし、美的情操を養うと共に芸術味を解し、完全なる人間、円満なる人格を造ってゆくことでなければならぬ。けだし、人格なき速記者は、魂の抜けた人形と同様に飾り物にはなるかも知れないが、真の人間として使いものにならないからである。